それぞれの表現

「夜警の歌」の夜の静けさが表現できる休符(Tさんの表現)
「夜警の歌」の夜の静けさが表現できる休符(Tさんの表現)

 生徒のTさんからグリーグの「夜警の歌Op.12_No.3」を弾きたいというリクエストがあったので、音楽之友社版の『抒情小曲集1』を入手しました。

 

 この曲集は、巻末にピアニストの舘野泉さんの解説がついているのですが、それがめっぽう面白いのです。

 たとえば、「民謡Op.38_No.2」では、「中間に出る右手三連音の波うつ形は、夕日にきらめく白い手かヨーデルのさえずりのよう」。

 楽譜を見て、そんな解釈ができたら、演奏の深みがまるで違ってきますよね。

 

 「夜警の歌」については、ペータース版の楽譜に、「シェイクスピアの『マクベス』から霊感を受けて」と記されている、と舘野さんは指摘しています。

 演劇をイメージするならばと、私流に解釈してみました。

 

 最初は、穏やかなホ長調ですから、夜の安らぎの中、舞台中央を夜警たちが歩いているシーン。

 と、湿り気のあるホ短調に一転、サイドの幕の前にふわっと夜の精霊が登場。ピアニッシモ〔とても弱く〕とフォルテ〔強く〕の派手な強弱で、妖精たちが場をにぎやかします。

 そして、そんな喧騒が消えてゆき、元のホ長調に。見慣れた夜の街が現れ、夜警たちはまた歩き出す。

  

 Tさんにもどんな風に弾きたいか尋ねたところ、フレーズごとに現れる四分休符で夜の静けさを表現したい、とおっしゃっていました。

 同じ曲でも、人それぞれに注目するところが違って面白いですね。

 

 お手本をまねして弾くのは勉強になりますが、生徒さんたちには、ぜひ、こんな風に弾きたい、という自分なりの表現を見つけてもらいたいです。そうすれば、きっと演奏の楽しみも広がると思います。


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